往生院だよりコラム 平成18年5月号より
「無常・・」2

        前号におきましては、無常の世における「少欲知足」「報恩功徳」の大切さについ
       て、簡単に述べさせて頂きました。今回も前号に引き続いて、「無常」について若干
       の補足をして参りたいと思います。
        人間は、生老病死の四苦を抱えています。この四苦は、全宇宙万物が常でない
       「無常」の中、人間が「欲」を持ってしまっていることに起因するものであります。
        生老病死・・生きていく中、欲望・煩悩が渦巻く人の世において、様々なやり取りに
       おける苦しみがあります。老病死についても、受け入れがたい苦痛として捉えがちに
       なってしまいます。これも「欲」によるためであり、「まだまだあれもしたい、これもした
       い、あれもほしい、これもほしい、まだやり残していることがたくさんある」と無常の中
       において、老病死で滅していくことを拒絶してしまいます。
        また、無常の世においては、満足することも当然に移ろい続けていくため、いくら
       欲を出そうが、満足を得られることも当然になく、欲を出す一方の中では、ただ虚し
       いだけの無為の時を過ごしてしまうことになってしまいかねません。無常を理解せず
       では、浅ましく、いやらしく、おこがましくも私たち人間は、欲を出し続け、もがき苦し
       みながら、俗世の浮き沈みの中をさまよい歩くことになるのであります。
        当然に人間が人間である限りは、欲を完全に無くすことはできませんし、欲があっ
       てこそ人間は生きることができる存在でもあります。しかし、その欲の扱いを間違っ
       てしまえば、破滅への道を歩んでしまうことになってしまいます。人間の強欲・傲慢
       さの象徴の一つとして、自然環境破壊を挙げることができます。私たちは、必要以上
       に自然界の生き物たちを殺して、むさぼり食し、経済活動においても自分たちの豊か
       さ・便利さ・贅沢三昧・金儲けのために、自然環境を好き放題に破壊して参りました。
       そのしっぺ返しは、遠からずも迫ってきています。地球温暖化による自然災害増大、
       自然界の生態系の乱れ、新種悪性ウイルスがもたらす脅威・・誠に欲の扱いを間違
       ってはならない証左の一つであります。
        現代日本社会においても、まだまだ豊かで便利なものが溢れ、繁栄社会の中を過ご
       していますが、国債・地方債併せて1000兆円を超える膨大な借金を抱えて成り立って
       おり、度々これまでも述べさせて頂いて参りましたが、砂上の楼閣において幻想の繁
       栄を謳歌しているに過ぎないのであります。最近の世相においても、詐欺・偽装・粉飾
       ・談合と言った犯罪が増えつつあります。奪い奪われ、騙し騙されの中でしか、もはや
       豊かさ、便利さ、贅沢が維持できなくなってきています。国地方の膨大な借金を返済し
       ていくこれからの苦しみとして、各種の増税・高負担も始まり出して参りました。
        環境問題、日本の膨大な財政赤字問題も、様々な人間の強欲さゆえに引き起こされ
       たことであります・・今の見栄・欲目が激しい社会の中では、同じように見栄・欲目を出
       してしまえば、結局は浮き沈みの苦しさの中を過ごしてしまうこととなります。その苦しみ
       から逃れるためにも、やはり「足るを知り、欲を少なくすること」が、非常に大切になると
       考えております。
        前号の結びと同じでありますが、改めて、欲得ある人間である限り、なかなかにも自
       らを捨てきっていくことは本当に難しいものの、欲を持つ存在としての傲慢さと浅ましさ
       をしっかりとわきまえた上で、無常の世を理解し、様々な恩恵を受けて生かされている
       ことに感謝し、謙虚さと配慮も養い、できうる限りに少欲知足、報恩功徳を実践していか
       なければならないと考えております。
 
       川口 英俊 拝

       平成18年4月3日


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