往生院だよりコラム 平成18年8月 お盆特別号より
「岩瀧不動明王様」

     往生院六萬寺の山号は「岩瀧山」であります。墓苑の一番上に観音菩薩様を
    お祀りしてある奥の院の建物がありますが、そこから約百メールほど山手に入った
    ところに、大きな岩が無数にあり、その一角に瀧が存在していることに山号が由来
    しています。その昔、修験道を開いた役小角行者が滝行の場としていたとも伝えら
    れているところであります。
     滝には、石像の不動明王様をお祀りさせて頂いており、毎月28日には私がご供養
    のお参りに行っています。
     ところが、今年の6月にお参りに行った際、なんとお不動さんが粉々に砕け散って
    いて愕然と致しました・・大きな石が当たった跡とその石がすぐ近くにありました。
    おそらく6月末の集中豪雨の時に落石したのが原因だと思われます。仏心の内面
    を顕す形相を持ち、大日如来の化身でもある不動明王様の崩壊が示すものは・・
     この時、これは果たして単なる自然災害として片付けられるものなのかどうかと
    考えました。近年、豪雨や台風などの自然災害の脅威が増大している原因は、
    地球の温暖化によるものであると考えられています。そうすれば、今回の件は単
    なる自然災害だけに留まらず、ある意味で人災によるものも加味されているのでは
    ないかとも思うわけであります。
     人間の強欲・傲慢さが引き起こしているしっぺ返し・・自分たちの豊かさ・便利さ・
    贅沢三昧というもののために地球自然環境を破壊に破壊し、資源を食いつぶし、
    二酸化炭素など温室効果ガスを大量に排出させたことによっての地球温暖化・・
     人為的要素が非常に強くなりつつある、地球自然環境破壊・地球温暖化による
    自然生態系の乱れ・巨大災害増大・新種ウイルスなどでの被災・犠牲のみならず、
    人間の強欲が生み出す様々なしっぺ返しの事象・・戦争による被災・犠牲、経済
    活動優先による被災・犠牲、凶悪犯罪による被害・犠牲など日々のニュースで多々
    流れてきます。その度ごとに「次に被災・被害・犠牲になるのは自分の番だ」と
    覚悟し、また、「次に加害者になるのも自分かもしれない」とも覚悟しています。
    とにかく、人間の欲得・浅ましさ・傲慢さ・おぞましさ・愚かさをできる限り捨てて
    離せるように、「少欲知足」「報恩功徳」をしっかりと実践し、常に自らに克てている
    のかどうかという「克己」を確認していかなければならないと考えています。
     岩瀧不動明王様は、その後修復が済み、無事に元の場所に再び安置させて
    頂いております。毎月のお参りのご供養で鎮守国家・天下泰平・世界安寧を祈願
    させて頂いております。

    川口 英俊 拝   平成18年8月9日


    「不動明王」

     不動明王は、仏教の信仰対象であり、弘法大師空海が大陸より伝えた密教特有の
    尊格である明王の一つであります。密教の根本尊である大日如来の化身、あるいは
    その内証・内心の決意を表現したものと見なされています。密教では、一つの「ほとけ」
    が、自性輪身・正法輪身・教令輪身という三つの姿で現されているとし、自性輪身・如来
    は、宇宙の真理・悟りの境地そのもの、正法輪身・菩薩は、説法する姿、教令輪身・明王
    は、仏法に従わない者を教化し、仏敵を退散させる実践的な働きを示し、不動明王は
    大日如来の教令輪身とされています。
     不動明王は当山では、先に紹介させて頂いた岩瀧不動明王、境内御仏方における
    無縁塔のお隣と、十二支・酉年の御守本尊の三体が祀られております。
     不動明王は、よく子どもさんが「こわい」と言うように、憤怒・鬼の恐ろしい形相をして
    います。これは、煩悩を抱え、もっとも救いがたい私たち人間衆生を力づくでも救おうと
    しているためであります。
     「不動」とされるゆえんは、釈尊が悟りを開くために最後の修行に入られた時、菩提樹
    の下に座して、「悟りを開くまでは、この場を立たず」と決心されて、数々の世界中の魔王
   (煩悩)が釈尊を挫折させ、その場を動かさせようと押し寄せてきたものの、釈尊はついに
    負けず動かずに悟りを開かれたところにあるとされています。常に穏やかで慈しみに溢れ
    た表情をされている釈尊も、この時における魔王たち(煩悩)と戦った時には、心の中は
    凄まじい憤怒・鬼の形相であったことがまさに不動明王のお姿に現されていると言えます。
     不動明王のお姿は、怒りによって逆巻く髪はまとめ上げられて弁髪となっており、法具は
    極力付けない軽装で、法衣は片袖を破って結び、右手に降魔の三鈷剣(魔・煩悩を断ち切
    って退散させる剣)、左手に羂索(悪を縛り上げ、煩悩から抜け出せない衆生を救い上げる
    ための投げ縄)を握りしめ、更に火炎・迦楼羅焔(劫・見・煩悩・衆生・命の五濁のうち煩悩
    から生じる人間の三毒である貪・瞋・癡を食らい尽くす伝説の火の鳥の炎)を背負い、憤怒
    の形相で粗岩の上、「一切の衆生を救うまではここを動かじ」と決意されている像容であり
    ます。
     当山の境内無縁塔の隣におけるお不動さんの前には、八大童子のうち「こんがら童子」
    「せいたか童子」の二名も祀られています。
     お不動さんをお参りされる際には、五濁のうち煩悩から生じる三毒である貪(むさぼり)・
    瞋(いかり)・癡(おろかさ)を反省し、「少欲知足」「報恩功徳」の大切さについて再認識する
    ことが誠に重要であります。

    不動明王慈救咒

    のうまく さんまんだ ばさ(ざ)らだ(ん) せんだ(ん) まかろしゃだ(や) そ(さ)はたや
    うんたらた かんまん


    参照:

    岩瀧不動明王様崩壊に思う・・



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