施本 「佛の道」 発行日 平成19年12月28日   執筆完了日 平成19年11月25日

第四章 一切皆苦


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岩瀧山 往生院六萬寺

著者 川口 英俊

第四章 一切皆苦

 「この世のあらゆる一切の全ては苦しみである」といきなり言われると、誰もが悲観的になり嫌悪することでありましょう。

 でも、「あなたにとって生きるということで苦しみはないのですか?」と聞くと、真剣に考えてみれば「やはり色々な苦しみがある」と答えることになるでしょう。

 もちろん、仏教はその苦しみを無くしていくための教え、方法論を説いているものであります。共にしっかりと学び実践することによって、苦しみを無くしていきましょう。

 では、まず何が苦しみかということについて、ここでは考えていくことにします。

 理由は簡単なのであります。それは諸行無常なる中に永遠不変・常住なるものを求めようとして妄想してしまうこと、諸法無我なる中に、固定した実体としての我を求めてしまうことにあります。このようにほしいと求めてしまうことを「渇愛《かつあい》」と言いますが、この「渇愛」が満たされないことで、苦しみが生じてしまうわけであります。また、諸行無常・諸法無我の中で、何も執着できるものがないのに拘わらず、しがみつこうとしても、しがみつけないことで苦しみが生じてしまうと言うことでもあります。

 この「渇愛」・「執着」を産み出してしまう「妄想」の集まりが「煩悩」であり、その「妄想」を一つ一つ無くしていくことで、苦しみも一つ一つ無くなっていくのであります。そして、全ての「妄想」が無くなれば、当然に「煩悩」も無くなり、苦しみも完全に無くなりますので、仏教はその境地を目指すための教えでありますから、一切皆苦と言われても悲観することなく学びについて精進しましょう。

 次に、人間が味わう具体的な苦しみについて、仏教では簡潔に「四苦八苦」にまとめています。

 それは、「生・老・病・死」の四苦、そして、「愛別離苦《あいべつりく》」・「怨憎会苦《おんぞうえく》」・「求不得苦《ぐふとっく》」・「五陰盛苦《ごおんじょうく》」の四苦で八苦になるわけであります。

 まず、生きる苦しみについてでありますが、やがて死ぬことは絶対に避けられないのに生きていかなければならないという苦しみ、身体も心も生きることを維持・継続させていくためには、食べること、体裁を調えること、住処を得ること、学んで知識を得ること、資格を得ること、働くこと、仲間を得ること、配偶者を得ること、子供をもうけること、友人を得ること、家族を養っていくこと、お金を貯めること、遊ぶこと、休むこと、病気になったら治療することなどに一生懸命に頑張って取り組まなければならないという苦しみ、しかもなかなか自分・人・家族・会社・社会・国家・世界が自分の思い通りにはならない、期待・理想通りにはならないという苦しみ、激しい生存競争・淘汰社会の浮き沈みの中で、いつ壊れてもおかしくない家族・友人・職場・社会など他との関係を何とかしてでも維持・継続して過ごしていかなければならないという苦しみ、いつ起こるか分からない天変地異や事故・犯罪にいつも脅《おびや》かされて不安・恐怖を抱えて過ごさなければならないという苦しみなど色々とあります。

 無常なる中で、やがて死を迎えれば、最後には全て捨て去っていかなければならない身体や金やモノや見栄や権力やらというものへの渇愛が止まずに、生というそのものに最後まで執着してしまうことによって、苦しみが生じてしまうことになります。

 老・病・死についての苦しみはここではあまり述べるまでもないと思いますが、それぞれ、若さ、健康、生という執着から生じる苦しみであります。

 また、無常なる中、変わってほしくないという渇愛・執着だけでなく、変わってほしいという渇愛・執着からも、なかなか思い通りに変わらない、期待通りに変わらないという苦しみも生じます。

 「愛別離苦」は、愛する者・モノ・ことともやがては別れ、離れなければならないという苦しみ、「怨憎会苦」は、激しく憎しむ者・モノ・ことでも出会って過ごしていかなければならないという苦しみ、「求不得苦」は、求めても求めても得ることができないという苦しみ、「五陰盛苦」は、「五取薀苦《ごしゅうんく》」とも言いますが、先に述べております色・受・想・行・識が盛んに働いて、その五薀に囚《とら》われて「我」に執着してしまうために生じる苦しみであります。

 また、人間にとっては、内面的なもの、外面的なものに拘わらず、あらゆる感受されるものは楽(快楽・享楽)・苦・非苦非楽の三つに分けることができますが、楽は壊れるときに苦となり、非苦非楽のものでさえも無常の中にあっては、生滅変化を免れないのでいずれ壊れゆくときに苦となってしまう、ゆえに苦でないものはこの世においては何もないとして、あらゆる一切の全ては苦しみであるとお釈迦様は説かれたのであります。


   一、はじめに
  二、諸行無常
  三、諸法無我

  五、涅槃寂静
  六、四聖諦
  七、八正道・中道
  八、因縁生起
  九、智慧
  十、無執着
 十一、無所有
 十二、無価値
 十三、空
 十四、慈・悲・喜・捨
 十五、少欲知足
 十六、現実の瞬間瞬間を生きる
 十七、煩悩への対処
 十八、無記 
 十九、四弘誓願
 二十、最後に

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