施本 「佛の道」 発行日 平成19年12月28日   執筆完了日 平成19年11月25日

第七章 八正道・中道


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施本「佛の道」


岩瀧山 往生院六萬寺

著者 川口 英俊

第七章 八正道・中道

 八正道《はっしょうどう》(八聖道と言う場合もある)とは、文字通り正しい八つの道、実践指針のことです。

 その内容に入る前に、まずは「正しい」ということについてしっかりと考えておかなければなりません。私たちは普通に生活する中で、「あれは正しい」、「あれは間違っているということが正しい」と判断することが多いですが、それらの判断においては、大抵の場合、それぞれ自身の主観・偏見・独り善がり・自己都合・自己満足などの恣意的要素が入り交じって、あやふやで、ほとんどの場合、絶対的に正しいとは、なかなか言えないものばかりであります。

 または、正しいということも、多くの人間が賛同しているから、多数決で決まったものだからという理由であったり、時代の変化、人間の価値観の変化、新たな発見によっても変わることも頻繁にあります。

 絶対的に正しい真理というものであれば、いつどんな時代においても、草木や虫たちにとっても、人間が絶滅した後の地球であっても、または宇宙の全ての現象・存在にとっても、のみならず欲界(六道《りくどう》、天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄)・色界(物質的世界)・無色界(欲界・色界でもない精神的世界)の三界においても当然に正しくなければならないのであります。

 また、やっかいであるのは、人間は自分の認識・判断がいつも必ず正しいと思って行動していることです。よもや誰も自分の認識・判断が間違っているとは思ってはいません。みんながみんな自分は正しいと思って行動しているがゆえに、自分の認識・判断と違うことを言われ批判されたり、違う行動をされたりすると、それを認めず、受け入れずに腹が立って怒りを出し、衝突してしまうのであります。私たちの世界で争いが絶えないのも、この誰もが自分は正しいと認識・判断しているためなのであります。

 人間の認識・判断には、このように主観・偏見・独り善がり・自己都合・自己満足など恣意的要素が強く入ってしまうことが多いので、本当に正しい真理を認識・判断するためには、それらの恣意的要素を全てしっかりと排除していかなければなりません。

 そのために、上から見ても下から見ても、右から見ても左から見ても、中間から見ても、過去から見ても現在から見ても未来から見ても、どのようないかなる現象・存在から見ても、三界における全てから見ても、何ら偏りの無い、何ら差別《しゃべつ》の無い、何ら囚《とら》われの無い立場から認識・判断したものを、ようやくに「正しい」としなければならないのであります。このような立場のことを「中道《ちゅうどう》」と言います。

 この中道の立場によって、八正道が成り立つのであります。では、その内容に入ります。

・正見 「四聖諦の智」と言われています。
 正しく真理、四法印・四聖諦を見極めることですが、諸行無常・諸法無我の真理をあるがままに中道の立場で完全に知見することで、あとの七つの正道の実践によって智慧を開発して、苦からの解脱を目指し、涅槃へと向かうように調えていくための第一歩となります。

・正思惟《しい》
 欲(主に五欲である財欲、色欲、飲食欲、名誉欲、睡眠欲など)によってもたらされる悪い行いについて否定していく考えのこと。特に、無害心・無瞋恚・無貪欲の三つについて思惟すること。無害心とは、生きとし生けるものたちを慈しみ、害を与えないようにすること。無瞋恚とは、激しい怒りをもって行動しないこと。無貪欲とは、足るべきをわきまえずに、必要以上にまで貪ることをしないことであります。

・正語
 正しい言葉遣いのこと。正見・正思惟を受けての言動を調える上で、特に次の四つのことに気をつけて慎むこと。妄語(虚偽を語ること)・両舌(言葉を都合において使い分ける、二枚舌のこと)・悪口(相手を傷つける・不幸に陥れる言葉)・綺語(必要の無い美辞麗句、いい加減な言葉)を慎むこと。

・正業
 正しい行いのことですが、他に迷惑をかけない、他を不幸にしないことで、特に次の三つのことに気をつけて慎むこと。殺生(自己満足・自己都合・独善的に生き物の生命を絶つこと)・偸盗《ちゅうとう》(盗むこと)・邪婬《じゃいん》(よこしまな男女関係・不倫のこと)を慎むこと。

・正命
 命をつなぐ上において、大切で必要になる衣・食・住・薬をまかなうために正しい生活・生業《なりわい》をすること。他に迷惑や危害が及ぶような生業・職業に就くことは気をつけて慎むこと。

・正精進
 正命のために、正しく勤め励み努力をすること。特に次の四つについて精進すること(四正勤《ししょうごん》)。すでにやってしまった悪を消すための努力、いまだしていない悪について、これからも絶対にしないための努力、いまだしていない善をこれからしていくための努力、すでにしている善を更に進めていくための努力。
 
・正念
 無常・無我なる中における瞬間瞬間の心の変化、身体の変化についての真実に正しく気づいていくこと。心を常に真実に気づかせていくこと。

・正定
 正念の実践のために精神を統一して心を定めること。禅定とも言う。坐禅や瞑想の実践。この正定によって、正見も完成し、智慧を得ていくことができるようになります。



   一、はじめに
  二、諸行無常
  三、諸法無我
  四、一切皆苦
  五、涅槃寂静
  六、四聖諦

  八、因縁生起
  九、智慧
  十、無執着
 十一、無所有
 十二、無価値
 十三、空
 十四、慈・悲・喜・捨
 十五、少欲知足
 十六、現実の瞬間瞬間を生きる
 十七、煩悩への対処
 十八、無記 
 十九、四弘誓願
 二十、最後に

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