施本 「佛の道」 発行日 平成19年12月28日   執筆完了日 平成19年11月25日

第六章 四聖諦


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岩瀧山 往生院六萬寺

著者 川口 英俊

第六章 四聖諦

 「四聖諦《しせいたい》」は、苦諦・集《じっ》諦・滅諦・道諦の四つであります。

 諦とは真理という意味で、もちろん諦《あきら》めるという語意ですが、つまり、どんなに考察思慮し、どんなに検証を繰り返しても変わらない答えであったために、抵抗を止めて、諦めたということでもあります。例えば、どんなにこの世の現象・存在で「無常」ではないものを探し求めても、「無常」でないものが全く見つからない、どんなにこれが「我」として探し求めても、その「我」が全く見つからないということでの諦めた境地のことであります。

 四聖諦は、仏教の大切な教説で、苦しみから解脱し、涅槃へと至るための実践方法論であります。

 まず、苦諦でありますが、一切皆苦でも述べさせて頂きましたように、この世のあらゆる一切の全ては苦しみであるということですが、その苦しむ原因は何であるのかという集諦も含めてまずは考えていきます。

 一切皆苦においては、苦しみの原因は、妄想の集まりである煩悩にあり、その妄想の代表格として、ほしいという「渇愛」、しがみつこうとする「執着」があると述べさせて頂きました。ここでは、さらに煩悩・苦しみの原因の根本である「無明《むみょう》」について扱いたいと思います。

 無明とは、字の通り、明るさが無いということですが、つまりは、真理という明るさ、智慧という明るさから遠ざかってしまっていて、暗い闇の中をさ迷い続けている、真理について盲目的になっているということであります。この場合の真理とは、四法印・四聖諦のことであり、智慧についてはまた後の章で詳しく述べることにします。

 無明は、無知とも表されることがあり、煩悩の三毒としてよく挙げられる貪瞋痴《とんじんち》の痴、つまり愚かさのことを言う場合もあります。

 また、十二縁起(因縁)の第一番目に煩悩を総称する形で挙げられており、煩悩の一切のことを示す場合もあります。十二縁起につきましては、また後の章で扱います。

 一切皆苦の章の中にありました四苦八苦も、その根本の原因は無明にあり、その無明をいかに打ち破って克服するかは、四法印・四聖諦の理解の進み具合次第に係るわけであります。 

 もう少し簡単に述べてみますと、この世では何も満足できない、その不満が苦しみになるのですが、ではなぜ不満になるのかが分からない愚かなことを無明だと言うわけであります。例えば、変化していくものを変化しないものとして捉えようとしたり、固定した実体としての我はないのに、我があるのだとして捉えようとしたりすることに、満足できなくなる、不満の原因があることを諸行無常、諸法無我の真理を自覚することによって、愚かで無駄な思考・妄想・行動を止めることが大切になるというわけであります。仏教の真理を自覚して、無明の闇に打ち克っていかなければならないのであります。

 このように、集諦においては、苦しみの原因は、ただ煩悩と表す場合や、渇愛・執着と表す場合もありますし、煩悩を喚起させて、苦をもたらす根元として無明と言う場合もあります。または、同じく煩悩の根元として、貪欲《とんよく》(むさぼり)・瞋恚《しんい》(激しい怒り)・愚痴《ぐち》(おろかさ)の三毒を言う場合もありますし、十二縁起では、無明を苦しみの根元として、次に渇愛によって苦しみがどんどん広がって、執着によって更に苦しみが大きくなっていくとしている場合もあります。

 次に、滅諦・道諦でありますが、滅諦は、涅槃寂静と内容はほぼ同じで、苦しみの原因である煩悩(ここではただ煩悩としておきます)を完全に滅すれば、苦しみも生じることなく当然に滅することができて、涅槃へと至るという真理のことであります。 

 そして、道諦において、苦しみを無くすために、涅槃に至るために、ではどのようにして煩悩を滅していけばよいのかという実践行動について、お釈迦様は八正道を説かれたのであります。



   一、はじめに
  二、諸行無常
  三、諸法無我
  四、一切皆苦
  五、涅槃寂静

  七、八正道・中道
  八、因縁生起
  九、智慧
  十、無執着
 十一、無所有
 十二、無価値
 十三、空
 十四、慈・悲・喜・捨
 十五、少欲知足
 十六、現実の瞬間瞬間を生きる
 十七、煩悩への対処
 十八、無記 
 十九、四弘誓願
 二十、最後に

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